京都「Droit(ドロワ)」へ。
新たに居を構えたのは、
静かな気品を湛える「関西日仏学館」の中。
雨に濡れた桜は、晴れの日とはまた違う艶をまとい、
幻想的な表情を見せていた。
その風情を楽しみながら、館へ足を踏み入れる。
アイランドカウンターの向こうでは、
森永シェフが穏やかな笑みを浮かべている。
まずは、シェフ手製の食前酒を一杯。

特別栽培の生姜に、ポルト酒、そしていちご。
ひと口含めば、ふわりと頬が緩むやさしい余韻。
冷たすぎず、熱すぎず、絶妙な温度が身体にすっと染み渡り、
これから始まる一夜のストーリーへ、静かに心と体を切り替えてくれる。
NV Prémices Brut Rose domaine Jose Michel
ジョゼ・ミシェルのロゼという幸せのスターター。
ピノ・ノワール50%、ムニエ50%。
優しい飲み心地。濃密、芳醇でいてピュアな味わいの余韻。
■ホタルイカ
リソルという、具材をパイ生地で包んで揚げるひと皿。
中にはホタルイカの濃密なソースを、
ハーブと柑橘のシートを合わせている。
足の部分からぱくっとひと口。
まず柑橘の香りがふわりと立ち、
そのあとにホタルイカの旨みとソースが重なる。

パンが、凛としている。質朴な味がした。
■桜のブルーテ
カリフラワーと赤かぶらを使った、
やさしい温度帯のブルーテ。
キャベツの甘みも重ね、
さらに、庭の桜葉の塩漬けをアクセントに。
仕上げに桜の葉のパウダーとミルクの泡を添え、
春の香りを立ち上げている。
口に含むと、ブルーテのやわらかな口当たりの奥から、
桜の香りがふわりと広がる。
軽やか、ほろ苦い余韻
■モリーユ
フランスの春。
詰め物は、蕗のとうとホタテのすり身。
ナイフをすっと入れると、断面はぷりぷりと艶やかで、香り高い。
ブールブランのまろやかな酸味、
そこには木の芽を忍ばせていて、最後にふわりと季節を運ぶ。
■佐賀ホワイトアスパラ
佐賀のホワイトアスパラに、白ミル貝を合わせたコンビネゾン。
ネパールのスパイスを忍ばせたトリュフソースが寄り添い、
野趣ある香りをふわりと残す。
■鯛
鳴門の名漁師・村 公一さんの鯛
やさしく蒸し上げられた鯛は、ふわり、しっとり。
きめ細やかな身質が舌の上でほどけ、繊細な旨みが静かに広がっていく。
浜名湖の新海苔は、シャンパーニュを加えたソースで華やかに。
一方、北海道の紫海藻はじゃがいもと合わせることで、
ぐっと深いコクと香りを引き出している。
新海苔の軽やかな香りと、紫海藻の奥行きある旨み。
海の表情を幾重にも重ねた、春らしい一皿。
2010 Muntada Cote du Roussillon Village
Domaine Gauby
グルナッシュ、カリニャン、ムールヴェードル、シラー。
やわらかくシルキーな印象。
果実味は素晴らしく、エレガント。

目の前で繰り広げられる、シェフの所作に釘付け。
ほんのちょっとした会話も楽しくて。
■アニョー
フランスで有名な仔羊の産地、
南仏プロヴァンス・シストロンのアニョーを溶岩石でグリエ。
皮目の香ばしさと、内側に宿るみずみずしい初々しさ。
仔羊ならではのやわらかな旨みが、
口の中でのびやかに広がる。
“ソース・ソレイユ”は、
サフラン、あさり、レモンの葉、オリーブオイルを合わせて。
まるで南仏の太陽を思わせる明るい香り。
溌剌とした酸味と華やかな余韻が、アニョーの繊細さに寄り添う。
ロール状の品は、オレガノを忍ばせたアニョーの脂。
ピュアな甘みが迸った。
シンタマのローストは端正な味わい。
フロマージュは、「吉田牧場 マジャクリ」、「ロックフォール12ヶ月」
「サン・ネクテール」ほか計5種。別腹と飲み作動。
至福以外の何ものでもない。
■アヴァンデセール
梅コニャック グラニテ
清々しい。春からその次の季節へ、そんな表情
■グランデセール
スフレキャラメル
賞味期限は、ほんの数秒。
そう思わせるほどに繊細で、ふわりと消えていく。
「森永のキャラメルです」って、笑
森永シェフらしい、どこか愛らしいキャラメルの甘香。
グランマニエを纏った柑橘が、軽やかな香りの光を落とす。
クロモジの葉と幹を焙煎したお茶で〆。
ハーブとスパイスが混じり合ったような。心ほぐれる。
その後は、大きな木のテーブルで、ゆっくりと食後酒を。
カリン種の瘤木だというその天板には、
細かな渦を描く年輪が幾重にも重なり、
圧倒的な時間の深みを湛えていた。
チャーミングなシャンデリアは、辻和美さん作。
森永シェフとの対話、そして
師匠とのひとときは、この上なく豊かな時間だった。
門上さん、いつもありがとうございます!
「フランスが大切にしてきたものを積み重ね、
やり続けるからこそ自由になれることがある。
ここは、フランスだから」
門をくぐれば、そこはフランス。
この場所だからこそ生まれる、伝統と自由。
フランス料理でありながら、世界に一つしかないレストラン。
森永シェフと、日仏学館という場所、そしてここに集うお客様とともに、
その景色は少しずつ育まれていくのだろう。
「Droit」ドロワ
京都市左京区吉田泉殿町8 関西日仏学館1F
075-761-2180