-草木萠動-(そうもくめばえいずる)
寒い冬を耐え忍んだ新たな命が、芽吹き始めるころ。
千葉・木更津「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」にいました。
1ヶ月ぶりの再訪です。
ファーム内には、初々しい緑色、柔らかな薄紅梅…
春の訪れを感じさせる淡い色彩に、心が浮き立つ。
villa「cocoon」にチェクイン。
暮れなずむ頃、周辺を散策。お腹を空かせたなら
カウンター9席だけの特等席「perus」へ。
カウンター席に落ち着けば、目の前には幽玄の世界が広がる。
BGMには、音楽家・小林武史さんによる美しきピアノの旋律。
酔う前に酔いしれそうな夜が始まろうとしている。
今夜も山名新貴シェフと、小高光さんセレクトの
ペアリングの妙と、ふたりの阿吽の呼吸を楽しませていただきます。
「本日のスープ」
この日、用いる、ファームで収穫したオーガニック野菜からなるベジブロスに
蛤のエキスという滋味。心が洗われるわ。
「Rue de Vin “Esprit”」
シャンパーニュ製法による本格スパークリングワイン from 長野。
芯の太さに驚き。
見続けていたい光景だこと。
敷地内のチーズ工房で作られた、出来立ての宝石が目の前に。
■白い宝石
水牛モッツァレラ / トマト / バジル
水牛乳チーズ職人・竹島英俊さんがつくる「水牛モッツァレラ」を
箸でつまみ、齧りつけば、むっちりと跳ね返すような弾力。
徐々にミルクのピュアな優しさが、口の中を占拠する。
トマトのエキスのスープ、バジルオイルの清々しさが一層、
モッツァレラの気品を際立たせていた。
千葉・大原産の蛸が登場。
■セビーチェ・ガーデン
蛸 / 夏みかん / ふきのとう
ペルーの魚介マリネ・セビーチェを「perus」流に。
蛸はアスリートのような筋肉質、噛むほどに濃厚な旨みが押し寄せ
夏みかんの爽やかさ、ふきのとうの苦みが優しく語りかけてくる。
新潟ワインコーストにあるワイナリー「フェルミエ」の
「エルヴォルカン アルバリーニョ 2021」と共に。
繊細ながらも、芯のある旨みが滲み出る。
■優しさに包まれたなら
平飼い卵 / 小麦 / ペコリーノ
エミリア・ロマーニャの伝統「ラビオローネ」を
親鳥のボーンブロスをベースにしたソース、セージバターソースで。
ラビオローネから溢れ出る卵黄は「KURKKU FIELDS」の平飼い卵のもの。
そのピュアな味わいと、生地の味わい、ソースの深みが渾然に。
ファーム内にあるベーカリー「Lanka(ランカ)」で作られたパンと。
ソースを拭いながら。幸せのため息。
少し話はそれる。
昨年11月に
リニューアルしたベーカリー「Lanka(ランカ)」は
大阪「ル・シュクレクール」の岩永シェフ・プロデュースによりレシピを一新
健やかな表情のパンたちが並ぶ。朝、この光景を眺め、購入するのが楽しみの一つ。
さて「perus」。
ラビオローネに合わせて
山形「蔵王ウッディファーム」の貴腐ワイン「Who#00002」を
限定290本。名酒販店「IMADEYA」オリジナル。
(ピノ・ノワール(貴腐)50%、シャルドネ(貴腐)44%、プティマンサン6%)
濃密な味わいながら、すっと舌に広がる凛々しさをあわせもつ。
ふくよかな味わいがじんわり心に響き、ラビオローネの優しさが共鳴。
■春を告げる小糸川
小糸在来 / 梅 /オリーブオイル
大豆の在来種「小糸在来(こいとざいらい)」を用いた
ぬくぬくの自家製豆腐。その上には
クルックフィールズの母なる池で小高さんが獲ったスジエビ、2年熟成の梅干など。
小糸在来の深みのある甘みが、くっきりと浮かび上がっていた。
はぁ〜おいしい。これまた幸せのため息。
小糸在来の豆腐に合わせて、これまた稀少な…
新潟「KIYO WINES」の「GEKKO 2020」
デラウェア100%のオレンジワイン。
清らかな満月のような、たおやかさとエネルギーをもちあわせている。
■農場の豊かさ
有機野菜

人参、椎茸、プチヴェール…全ての野菜が「KURKKU FIELDS」の畑より。
プチヴェールとリーキのパウダーとともに。
果てしない素材力。その力強さこそ、生きる源。
お口直しに柚子大根、小麦ふすまを用いた蕪糠漬け
■紅黄浮かぶ竹筒
鮮魚 / 菜花 / 蛤
金目鯛とその肝醤油。
竹筒には、金目鯛とクラムチャウダ的エッセンス。
キンメの骨からひいた出汁に、蛤の旨み、サフランの優しさ。
心底癒された。
その竹筒に「七本鎗シェリー樽熟成」。なにこれめっちゃ合う!と一同大盛り上がり。
木樽由来の深く甘みのある香りがじんわりと。
サフランの香りとの相性はいうまでもなく、
竹筒のスープとともに味わえば、ぐっとバニラのようなニュアンスが膨らんだ。
■山の恵み
猪 / 春菊
「KURKKU FIELDS」の近隣で捕獲たイノシシを
連携する食肉処理場「オーガニック ブリッジ」で解体、加工、精肉に。
さっと熱湯にくぐらせた肉は、風味よく、甘い。
猪の骨、親鳥の骨などからとったボーン・ブロスと卵黄からなるクリーミーなつけ汁と共に。
さらに。つけ汁にナッツや豆板醤などを加え…。
4種の小麦粉を配合した自家製麺でつけ麺という至福。
噛むほどに、しぶとい味わいが押し寄せる。これも唸った。
猪には、長野「ファンキーシャトー」のピノ・ノワール ブラックラベル2018
この熟度としなやかな旨み、艶やかな余韻…。日本トップクラスじゃなかろうか。
山名シェフが手際よく、手打ちパスタを完成させ
■手打ちパスタ
小麦 / 海苔
味わい深いパスタと、カラスミ、富津の海苔の香りぐっと手を紡ぐ。
ちなみに私のんはポーション小さめ。皆さんはこの倍ちょっと。
小高さんはここに、「白石酒造」の芋焼酎「天狗櫻 ベニハルカ」をもってきた。
シュワっと微炭酸、すっきりとした芋のニュアンスが
からすみの風味、DNAに響くパスタの味わいに、ピタッと。ブラボー!
その後は竹島英俊さん作のチーズに酔いしれることになる。
左から、シェーブル 水牛のブルーチーズ 水牛のゴーダチーズ
鳥取「北条ワイン」の和製シェリー「ソル・アンバー」が六腑に染み渡る。
■桃になりたかった、もものすけ
もものすけ蕪 / 水牛リコッタ / 梅
赤かぶ「もものすけ」とリコッタ、両者の清々しい味わいが広がる
そしてエピローグは「水牛のキャラメルジェラート」。見事な着地でした。
地産地消、自産自消というキーワードはもちろん、
生命体の循環の舞台が「perus」だろう。
この地域、そして「KURKKU FIELDS」の作り手の魂と、
毎日の小さな移ろいを、皿の中に表現する山名シェフの技と創造性。さらに
小高さんによるペアリングの妙は、シーズン通して定点観測したいとさえ思う。
そして私は、このレストランをめがけて、再び旅に出る。
*昼は宿泊者以外の方も気軽にシェフの料理を
*夜は宿泊者限定のコース料理を堪能することができます
■Kid A