料理専門誌の取材があって帰省していた福井・小浜。
行きつけの寿司屋「鮨富」でサシ飲みな夜。
ビールで喉を潤し、すっと供された付き出しにハッとなった。
剣先イカと、その白子だという。
白子はハリがよくムチムチした食感。緻密で、噛むほどに甘みが広がる。
大将曰く、イカを捌き白子を取るのが難しいそうな。
そのブツを新鮮なまま味わえるのは、地元・小浜産だからこそ。
地物に地酒を合わせようでないか。
「梵 ときしらず 濃醇辛口」
深いコクを感じさせつつ、キレある後味。
●造り盛合せ
存在感がある甘みと食感の「サザエ」にはじまり、
ピンとエッジが利いた「ヒラマサ」、脂のってるなぁ。
「すまがつおたたきは」、ぐっと強めな燻香が酒を呼ぶ。
上記3素材は、若狭湾の定置もの。そう、地物だ。
さらに、越前の底曳き「バイ貝」は深い甘みを蓄えていて
「大間のクロマグロ(80kg)」の赤身はもっちり独特の食感で、清々しい余韻。
続く焼き物は、小浜港で水揚げされた宇久定置網の「スズキ」。
身詰まりよく、ふっくら。味もしっかり。地物の名残を愉しむ。
●アワビのバター焼き
絶妙に火が入り、緻密でいてしっとりとした質感。
バターのコクと、アワビの深い甘みが共鳴。
芋焼酎「天使の誘惑」と共に。
8年熟成のそれは、ブランデーを彷彿とさせるリッチな味わいで、
アワビの甘みとハーモニーを奏でる。
●グジの飯蒸し
ハフハフほおばれば、餅米の甘やかな香りと
あんの加減が心地よく
これまた地物のグジ(甘鯛)が顔を覗かせる。
身は、何というか透き通っていて、ふっくら、じつに繊細。
はぁ〜旨いわぁ〜堪らんわ〜って、目を細めながら幸せのため息。
●土瓶蒸し
実家近くで獲れたハモは、稀少な熊川葛で葛たたきに。
一番だしの馥郁たる香りが、双方の滋味を紡ぐ。
そして五臓六腑に染み渡るのです。
●早瀬浦 純米吟醸 山田錦
こちらも地元が誇る酒。福井・美浜町 三宅彦右衛門酒造
じつに軽快。りんごに通ずるニュアンスに続き、心地よい酸味が押し寄せる。
続いて握りへと。この酒、合うに違いない。
●剣先イカ
シャクッとした食感。心地いいなぁ。
イカと寿司飯との馴染みもよく、
両者がそれぞれの甘みを放ち、柚子香を漂わせながらファっと消えた。
●イカゲソ
さっと炙っていて、エビ塩をほんのり振っている。
それにより、ゲソの強い甘みがグッと主張していた。
●スズキ 焼き霜
香りよく、すっきりとした旨みが印象的。
●ヒラマサ 腹身
そめおろしと共に。
腹身はピンピン。ハリがあるわ。
上等な脂をもっていて、でもそのテイストは実にクリア。
1カン1カンとじっくり向き合い、
小浜の海幸の恵み、味わいの存在感をとことん愉しむ。
●大間のクロマグロ 赤身ヅケ
芳しく、すっきりとした酸味が心地よい。
こちらはfromスペイン。蓄養マグロの大トロだ。
甘く深みのある脂が口中に押し寄せる。でもひつこさはなく、どこまでも上品。
2日寝かせた地物のアジ。
シャクッと小気味良い食感で、まったりとした旨み広がる。
〆鯖は、スキッとした塩梅が寿司飯と好相性だった。
●バイ貝 炙り
エビ塩と酢橘と共に。貝の甘みがより一層、強調されていた。
●連子鯛
小浜の名産「小鯛の笹漬け」にも使われている連子鯛。
塩で締めて、酢で洗ったそれは、もうほんまに繊細な身質。
口に含めば、そのふわっと感堪らなく
ふくよかでいて、はらりほどけ消えた。まるで生き物のような握りだった。
●若狭牛A5 イチボ
風味よく、クリアな旨み広がる。
変化球もあって飽きさせないね。
愛知県産の「車海老」は、エビ味噌入りと、おぼろ入りの2種を。
丁寧な仕事がなされた、深みのある味わいでした。
釧路の筋子にも唸った…。ずっと食べ続けていたい味。
その後、玉子をいただく。
デザートまでぬかりなし。
香り高く優しい甘みの「抹茶 ババロア」を。
そしてお薄をいただき〆となりました。
こうやって、鮨富のカウンターで
大将・島川さんや二代目の陽平さんによる
地物の良さをいかした、丁寧な仕事が窺える
一品、握りをいただいてると
常々、港町・小浜に生まれ育って良かったなぁと、しみじみ感じるのです。
地元・若狭小浜が誇る海幸を、とことん堪能した夜でした。
「すし処 鮨富」
福井県小浜市小浜広峰83-1
☎0770-53-0337
open : 12:00〜14:00、17:00〜21:00
close: 月曜
The Year Of The Cat-Live /Al Stewart