大阪・ミナミ「英ちゃん冨久鮓」
大正6年創業の寿司割烹。
今年103年目を迎えたという。
私は20年ぶりに再訪。ご常連S氏には感謝しかない。
当時、芸大生だった私は、ミナミ・畳屋町の会員制スナックでバイトをしていた。
いわゆる同伴ってヤツで、
英ちゃんという老舗の暖簾をくぐることになったのだが、
ミナミの旦那衆が集う、老舗の貫禄に圧倒され、ただただ緊張していたっけ。
あの頃の出会いや味の記憶が、今の仕事に繋がっているなぁ、
いい経験をさせてもらったなぁ…。
なんて、付き出しをつまみ、ビールを飲みながらしみじみ。
▶︎鯛造り
豊後水道より。程よい弾力を残しつつもなめらかな質感。
透き通った甘みが心に響く。
▶︎はも
その身はふぁっふあ。
肝も、そして鱧笛(はもぶえ)と呼ばれる浮き袋も清々しい風味。
鮮度の良さはもちろん、丁寧な仕事を感じるのだ。
▶︎障子塩焼
鯛の中骨を炙ったもの。
「なんだこれ!?めちゃくちゃ旨い!」って密かに叫んだわ。
まとわりつく脂の甘みといい、香りも、そして塩梅も素晴らしいの。
簡素と見せかけて上等。
もちろん手づかみでシガシガ。骨をポキンッと割り髄のエキスまで食べ尽くした。
そして酒が止まらん。
▶︎子持ち鮎塩焼
9月下旬から登場する、今の時期ならではのスペシャリテな一品。
少し割った腹から、卵がぷっくり顔を覗かせる。
ハフハフ、ホコホコ。甘やかな香りがファッと広がった。
まぁるい酸味の蓼酢も旨し。
▶︎しいたけホイル焼き
香りしいたけ味しいたけ、ってくらい香りも味もインパクトある。
酒はシャブリから、ハイボールへ続き、クールダウン。
そして握りへと。
▶︎あこう ちりにぎり
ちり酢の塩梅よろしく、ムチッとした身の甘みが際立つ。
英ちゃんでは、毎年秋、ポン酢に用いる酢橘など柑橘を手絞りする。
▶︎いわし
大阪湾もの。
酢は深すぎず、軽めの〆加減ゆえ
肉厚の身から滲み出る脂がサラリ、口中に響き渡るの。
▶︎トツカアジ
和歌山〜沼島や淡路で獲れるアジ。ピンッとハリがある。
噛むほどに脂の甘みがじわりじわり、
米酢主体のまぁるい塩梅のシャリと融合。
▶︎〆さば
〆さばをオーダー分切り分け、シャリを合わせ形を整える。
厚い身と、シャリとのバランス最高。そしてどこまでも芳しいの。
時にはおっきな鯛を目の前で捌き、
注文が通るごとに寿司ネタを切り分けて握る。
ご主人・福田卓司さんの手仕事、そして美しき所作に目が釘付け。
▶︎赤貝
シャクシャク食感心地よく、とにかく濃いぃ味わい。
そして磯の香りがした。
▶︎赤貝 ひも
香り高い、そしてグッと広がる深い甘みに、ニンマリー。
▶︎赤ウニ
淡路・由良より。
濃厚かつ清新な甘み、磯の香りがブワッと広がった。
そして英ちゃんの名物「えり巻き穴子」の登場だ。
肉厚の穴子を丸々1匹用いた、ド迫力!
香ばしく、口の中でふわりっと踊り瞬時にとろけ、シャリとともに解けた。
タレをつけてから焼き上げる、独特の調理法、勉強になりました。
若狭かれい一夜干しやら、へしこ、焼あさりやら…
そそられる料理名の多いこと。
BGMなんぞ流れぬ店内は、静けさが漂う。
時にはご常連たちのミナミな賑わいもありつつ、でも凛としていて心地いい。
60余年前には、高松宮殿下がご台臨されたそうな。

現在は4代目の福田卓司さんが店を盛り上げる。
長い歴史を経て作り上げられた格式、そして
伝統の味と技を継承する福田さんの、快活なもてなしに癒される。
ここはまさに、大阪の食文化遺産。
「英ちゃん冨久鮓」
大阪市中央区道頓堀2-2-13
06-6211-1256
open :12:00〜15:00(14:30LO)、17:00〜22:00(21:30LO)
close:日曜、祝日、お盆、年末年始