奈良・高畑「翠門亭」
メキシコ×ガストロノミーという独創性、
さらにはセッションの掛け合わせも何もかもが、個人的には前代未聞!
そんな食事会が開かれ、運よく参加することができました。
大阪・堀江にあるメキシカンレストラン「Saboten / 覇王樹」。
シェフのウィリー・モンロイ氏は、今春開かれた「Noma Kyoto」の
キッチンメンバーとして活躍するなど新たな表現にも挑戦し続ける、
いま大注目の料理人。
余談だけれど、私はウィリーの故郷「La Manzanilla (マンザニーラ)」に、
バカンスで3回ほど行っていて、いつも妙なご縁を感じている。
彼はこの地で14歳のときに料理の世界へ入った。
若かりし頃、所持金4万円を持ち、来日。
苦難を乗り越え、ここニッポンで彼の才能は開花した。
今回は、ウィリーが創造するガストロノミックなメキシカンを特別コースにて。
さらに!それだけにとどまらないのが、
プロデューサー「ル シュクレクール」
横田益宏くんの人望の厚さ&クリエーション!
イタリアのパルマにて研鑽を積み、
日本唯一のパルマハム職人の称号を持つ生ハム職人
「ボンダボン」の多田 昌豊さんが、コースに加わり
さらにさらに。
イタリアのバール文化の神髄を大阪・京町堀から発信する
「プント エ リーネア」の名バルマン鎌田和佳氏による
ミクソロジーカクテルのペアリング…というのだから。
もうこれはね、即決めでしたよ。
「僕たちもリミッターを外して、チャレンジします。
伝統と革新、そして融合、生の時間…
音楽のセッションのようなひとときになれば」と横田くん。
その一部始終をご覧いただきましょう。
始まりは、烏賊とコーンの葉のスープ。
イカの風味、葉の質朴な雰囲気、続くチリの鮮烈な辛味に胃袋が広がった!
鎌田さんによる1杯目は
大和茶とボタニカルシロップをつかったカンパリソーダ。
ほんのり広がるお茶の香ばしさ、やわらかな味わいが
カンパリの個性と調和、夏から秋への移ろいを感じさせる味わい。
■LECHE DE TIGRE
手前の皿が「LECHE DE TIGRE(レチェ・デ・ティグレ)」
セビーチェのつけ汁というかマリネ液を「レチェ・デ・ティグレ」と呼ぶそうな。
ライムの酸味をしっかり感じさせつつ、ハマグリのピュアな旨みがじんわり広がる。
カンパリのほろりとした柔らかな苦味がめちゃ合うなー。
その奥の皿は…
■TOSTADA
アボカドとホタテの「トスターダ」。
トルティーヤを揚げた生地は、ザクザクッと香ばしく
トウモロコシの素朴な香りや甘みをくっきり感じる。
しかも、アボカドやホタテの、包丁の入れ方がもうね…見目麗しく
かつ、口に入れた際の繊細なテクスチャーと完成度の高さに、ハッと驚くばかり。
ここで…魅惑のペルシュウが登場。
手前、17ヶ月熟成は、ふぁっふぁ、なんて甘いの。
24ヶ月熟成は、切り方にもよるのだろう、凛々しく、旨みはすこぶる深い。
鎌田さんが合わせるカクテルは
お米を原料にした「奥飛騨ウォッカ」に
シャインマスカットと擦りたてのワザビ。
どこどなく草っぽい香りに、後追いでピリリとワサビのアクセント。
ペルシュウと欲し、カクテルを欲する、無限ループに突入。
目の前に差し出されたそれは
「コーンを鰹出汁で茹で、3週間スモークし続けました」とウィリー。
まさに「コーン節」!
鰹節からヒントを得たのだろう。日本の食文化に対しての知識も深い、
ウィリーならではの発想!
■ESQUITES
エスキーテス(またはエスキーテ)は、トウモロコシを使った屋台フードの定番だそう。
スナック的なそれが、ウィリーの手にかかると、クリエイティブな一皿に。
フレッシュ・トウモロコシを使ったスフレは、ファファで清々しい甘みが広がる。
スモークした生クリームとパセリオイルからなるソースと
コーン節の泡を絡めながら味わえば、
程よい燻香のなかで、コーンの香ばしさやピュアな甘みが浮かび上がる。
はぁしみじみ美味いの。
■FLAUTA
フルートをイメージした料理、それが「フラウタス」。
中の具は、トリッパとチョリソ。
トルティーヤは、先のトスターダよりも揚げ時間を短くしているのだろう、
程よくしっとり、柔らかい。優しく噛むほどに
チョリソの刺激やトリッパの清々しい風味が溢れた。
グリーンオイルやサワークリームの爽やか後味もいいね。
フラウタスに狙いを定めた
鎌田さんによる3杯目は
スペイン産ロゼのベルモットとレモンマリーゴールドからなる一杯。
フラウタスの噛めば噛むほど広がる辛みや旨みに、
ベルガモットが放つ軽やかな苦味と、
レモンマリーゴールドの柑橘を彷彿させる清涼感あるテイストが絶妙にマッチ。
次は「ペルシュウ」24ヶ月が登場。
いつも思う、多田さんのペルシュウは、エンドレスで食べ続けていたい、と。
相棒は、「ル シュクレクール」より。
カルダモン、ターメリック、クミンなどのスパイスをがっちり効かせたグリッシーニ。
フレッシュなスパイス(ホールの)を齧っているような鮮烈さ!
グリッシーニを齧りながらずっと飲めそうなくらい。笑
この皿に鎌田さんは、
「ホップを効かせたピエモンテのジン」で攻めてくる!
ここでホップのほろ苦さも感じさせるシャープな一杯、というのが素晴らしかった。
続く一杯は、「MAKINO GIN」とハイビスカスのカクテル。
スエコザサ(牧野博士が奥様の名前から命名)を使用したジンがあったんだ!
柑橘系の爽やかさ、ウッディな香り、ハイビスカスの爽やかさ…
これは昼酒にサイコウです。
ちょっと余裕が出てきたであろう鎌田さんを激写。
隣には強力な助っ人、マルケ料理専門「オステリア ラ チチェルキア」の連久美子シェフ!
最強のコンビネーションでしたよ。
■LOTUS MACHA
抹茶ではない。笑 「ルータス マチャ」
マチャとは4種のチレを軸にした深い味わいのサルサソースのこと。
主役はレンコン。12時間コンフィにした後、
奈良のパインナッツオイルを塗りながら、炭火でじっくり火を入れたという。
頬張れば、むっちりホクホク。これは肉に引けを取らない存在感だ。
マチャにはセップやラム酒も加えていて、香り高い。
複雑味のある辛さだけでなく、奥深い味わいの余韻が心地よかった。
一緒に味わったサワードゥ・ブレッド(カンパーニュ)は、
一晩かけて発酵させる(オーバーナイト法)ところを異例の48時間熟成。
咀嚼するほどに広がる心地よい酸味、飾らない武骨な優しさが、
ウィリーのプリミティブな料理に合うんですよこれが。
ルータス マチャとともに味わうのは
「ベルモット ディ トリノ」とカンパリ、カカオニブと柿の葉茶。
多彩なスパイスのような香り、木の実を思わせる甘酸っぱさ、
その奥に広がる香ばしさが、サルサマチャの深い味わいと響き合う。
さらに柿の葉茶の素朴な風合いも広がり、
イタリアを感じながらも着地点はここ奈良。見事でした。
■MOLE NEGRO
「モレネグロ」=黒いモレとは
数種類の唐辛子やドライフルーツ、ハーブ、カカオなどを用いる
リッチで複雑な味わいのソースとのこと。
炭火でしっかり焼き上げた野菜を用いるのが、ウィーリー流。
玉ねぎは透き通った甘みを放ち
イベリコ豚ヒレの、この色気ある火入れに唸るわ。
フルフルしっとり、噛むほどに優しい旨みが溢れ出る。
モレを添えて味わえば、カカオの香ばしさや一休寺納豆のような熟成香も。
いやしかし、味や香りの記憶は面白いもので
マンザニーラで味わったモレネグロの懐かしい味わいがよみがえった。
奈良の橘花ジン(KIKKA GIN)とライムと。
やや甘みを加えて、大和水で割った一杯。
まろやかな中に、ライムの溌剌としたニュアンスが
モレネグロのコク深い、伝統的な味わいと呼応していた。
トウモロコシを茹でて乾燥させ、粉にするところから手がける
ウィリー手製・トルティーヤと共に。
しみじみ旨いし、メキシコが香る、のです。
■CHURROS
デザートは揚げたて「チュロス」
エスプレッソ・マティーニと共に。嗚呼、至福以上の何ものでもなかった。
ここで終わらせないのが、横田くんはじめ彼らならではのセッションだ。
最強のタコス「カルニータ」が登場!
カルニータ(カルニータス)とは、豚をじっくり煮た料理で
ウィリーのそれは豚の耳を揚げるように煮込んでいる。
ギュッと搾ったライムの酸味、サルサの刺激がたまらない。
しかも、コーラと共にってめっちゃ現地の屋台!
ガストロノミーとメキシコならではの根っこの部分も大いに堪能した。
ウィリーの料理は、どこにもないメキシコ料理だった。
日本で長年暮らし、北欧のエッセンスも会得した彼ならではの視点。
そこには、母国の伝統に敬意を払いながら、繊細さと独創性が入り混じり
独自の世界を創り上げている。
何しろ丁寧な仕事を感じさせる料理は、そのどれもが奥深い。
だから、色気や刺激、トラディショナルの香りを感じさせながら、
しみじみ旨いなぁという安堵さえも感じ、あらゆる感情に響くのです。
左から、プロデューサーの横田益宏さん、「Saboten」ウィーリー・モンロイさん
「プント エ リーネア」鎌田和佳さん、そして「ボンダボン」の多田 昌豊さん。
メキシコと大阪、奈良のエッセンスも感じさせてくれた
鎌田さんのミクソロジーカクテルが、メキシコの風と共鳴し合い
パルマの香りとも見事なハーモニーを奏でていました。
バックボーンとなる国は違えど、人の心を動かすおいしい技が至る所に潜んでいた。
なんだろう、それって新しいフレーズを見つけたり
彼らそれぞれの感性に合った即興を加えたり。
音楽でいうジャム・セッションの感覚。そしれ皆が個性を放ち輝いていた。
ありがとうございました!