京都・福知山。
山深いこの地に、国内外から人を集めるレストランがある。
「野生の味」と「切れ味」をテーマに
若き三兄弟が、両親と共に切り盛りする「NOMI RESTAURANT」
左から、山本遊士丸さん(23歳)、陽之進さん(21歳)、凛志郎さん(18歳)
彼らは、3歳から包丁をもち、遊びのなかから料理に興味を抱く。
いつもの遊び場といえば大自然の中。
野山を駆け巡り、川の流木で飛行機や弓矢をつくったりしてた野生っ子。
「誕生日やクリスマスには、既製品ではなく
ものをつくる道具をあげる。そんな子育てでしたね」とお父様。素敵な教育方針。
彼らの手仕事は和包丁の土台となる「地」を研ぎ、刃を付け、
美しく、切れ味の鋭い包丁に仕上げるところから。
店では、1回転の仕込みに包丁15本、4枚の鰹節カンナを使うそうだが
100本以上あるさまざまな砥石を使い分けながら研ぎ上げる。
その包丁は、人参専用、胡瓜専用、肉専用…
食材はもちろん、食材の味を残すのか、閉じ込めるのかにより
刃先の仕上げを絶妙に変えていく。そんな3人の研ぎ時間の通算は
長男で1万時間、次男で5000時間、三男で3000時間(!)
長男・遊士丸(ユウシマル)さん曰く、中学生くらいの時、
日本を代表する研ぎ師・藤原将志さんに出会い、学び続けるなかで
兄弟揃って、刃物の切れ味にのめり込んだという。
敷地内では、独自の自然栽培を行い、平飼いで鶏を育てる。
三兄弟の庭のようなフィールドでは、ワナを仕掛けて鹿や猪を狩猟。
それら大切な命が、レストランのテーブルに並ぶことになる。
その薄さ、1.5ミクロン(1micron=1000分の1mm)
ちなみに人の髪の毛の細さは50~80ミクロン。
*究極の一枚
うま味が伸びやかに広がりながら、消えた。
鰹節は「クラシック節」で名を馳せる金七商店より。
削り節は我が家でも愛用させていただいています。
1.5ミクロンの鰹節と
カンナの刃を木槌で調整しながら、若干厚めの鰹節
その割合3:7
前者で味のベースをつくり、後者でふくよかな香りを際立たせる。
「ウチでは一番だし、ではなく0.8番だしと呼びます」とお父様。
*DASHI 0.8 & SUIMONO
感覚が研ぎ澄まされる瞬間。
次は早朝、近くの山で収穫した筍と、
野生みつば、菜の花と共に。
筍は甘く、清々しい風味。澄んだだしのうま味と共鳴する。
作陶家・桐谷純子さんによる自然界のオブジェのような器と美しく調和。
*松豚 × KIREAJI
切り立て、極細、香りよく瑞々しい。
藁で燻した松豚の香りと脂分がいいアクセント。
器は丹波篠山の作陶家・市野雅彦さん作。
*茶碗蒸
「僕たちが卵から孵化させた鶏が産んだ卵を使いました」。
野鳥が何を食べているかを研究し、
野草や湯がいた鹿肉などを刻んで餌にしているそうな。
銀餡とともに。
口に含めば、じつになめらかでいて清らか。
スッキリした味わいながら、しっかりとコクがある。
*Banboo
夢中になりすぎて、カメラ撮影忘れてスマホ撮影。
昆布だしで軽く炊いた朝掘り筍を
削りたての鰹節、花山椒とともに。
筍の甘みは奥深く、花山椒の初々しい香りが花開く。
*人参 × KIREAJI
「人参の舌触りを感じていただくための包丁使いです」。
何この人参・・・!!!
切られた人参の断面が、驚くほど輝いている。
おそらく、人参は切られたことに気がついていない、とさえ感じるくらい。
舌にのせると、なめらかのその先をいくツルツル感。
舐め続けると、レモンと和三盆、
クランベリーからなるエキスや香りが滲み出る。
噛みたくない気持ちを抑え、歯をスッと入れると…。
シャキッと鮮烈なテクスチャーに変貌。今度は人参の質朴な甘みがブワッと広がった。
何もかもギネス級のこの人参を切るために、
スライス3枚ごとに包丁を変えているらしい。驚愕!
*鹿 芹 菜
牡鹿のモモ肉、野生の田芹、鹿肉のつくね、ゴボウ、白髪ネギを添えて。
鹿の赤身肉と田芹の相性たるや!
大地のエネルギーが、体の隅々に、脳内にまで響き渡る。
つくねはフルフル、噛むほどに味わい深く、
ネギの香りを立たせる包丁使いも素晴らしかった。
*kushiyaki
三兄弟が仕留めた鹿を、串焼きで。
左から、カタ、ヒレ、内モモ、シンタマ。手前にはハツ。
カタはふっくらたおやかで優しい旨みを感じ
大人の雌鹿のヒレは、味がグッと濃厚。
内モモはタレの絡みも良く、こちらも濃ゆい味わいで
シンタマはぷるんと程よい弾力、花山椒の余韻が心地よかった。
ハツもキレイな味!
いずれも、何これ鹿肉!?ってびっくりするくらい澄み切った味。
仕留め方と、迅速で的確な処理の賜物だろう。
話を聞いて合点がいった。三兄弟は
愛媛・今治のカリスマ漁師・藤本純一さんから
魚の神経締めについての手ほどきを受けたという。
彼らは、その技を鹿肉で実践しているのだとか。
いやはや未知なる世界。
「切れ味は調味料にもなるんです」と、長男・遊士丸さん
*A cucumber that doesn't realize it's being cut
押すと引く
切られていることに気づかないキュウリ。笑
左は引き切り、右は押して切ったもの。
前者は艶やかで瑞々しい。
後者は、よりキュウリの香りが際立っていて、エキスが溢れ出た。
切れ味を調味料にするという発想が凄いな。
無肥料無農薬育てたお米。
しかも、山の最上流にある田んぼで。
手刈り、天日干し、籾殻付きのまま保存し、
お客の来店に合わせて精米するという。
土鍋で炊いたそれは、小粒ながらもっちり。
自然な甘み、芳しさが堪らん。
*出汁巻
ふるふる、むっちり。自然界のエネルギーを感じる味。
軽く炊いた蕨が、ふんわり、微笑みかける。
*猪 鹿 鉄
「包丁で香りを作ります」。
和牛刀から柳刃までを駆使し、
猪、鹿、松坂豚のバラ肉を手切りしていく。
「ミンチの場合、横の二面は鉄、上面はステンレスの包丁で」というように
切れ味を隠し味にしているのだ。
頬張ればむっちり、
ジビエ特有の野生っぽい風味は清々しく、
噛めば噛むほど旨みを感じる。
蓄えた肉汁は澄みきっていて、もうハンバーグの別次元。
「細野さん、ハンバーグ好きだから食べさせてあげたい」って
目の前にいらっしゃる、松本隆さんはポツリと呟いた。
(細野さん→細野晴臣さん)
土鍋と、銅の羽釜で炊いたご飯の食べ比べをしつつ、
猪鹿鉄ハンバーグと米。最強でした。
*ブラッドソーセージ
鹿肉の血やレバーや様々な部位、豚の血を用いたブーダンノワール。
良い個体が獲れたときだけ登場する稀少な品。
各種スパイスと合わせた後に、茹でてソテーして、稲藁で少し燻している。
新鮮な血液があればこその極みの品。
切れ味と並び、彼らが誇る最高の鹿肉を余すとこなく味わった。
*DON
米麹でマリネした鹿ロースを用いたカツ丼。
平飼いの鶏の卵、野生の三つ葉で卵とじという贅沢。
このパン粉に至るまで、相当な時間をかけられていて驚いた。
1片ずつ手で割いてほぐした、切れ味の逆説をゆくパン粉は
鹿肉との調和が見事だっら。
*〆
薄味ながら深みがある。
心が洗われる、命のスープ。
*甘味 野生茶
苺の粒々までもがスパンッと半分、という切れ味。
山の中で摘んできた野生の茶葉で、お茶を作るところから。それをアイスに。
純粋無垢な味がした。
コーヒーは三男・凛志郎さんによる自家焙煎。
曰く「15歳でコーヒー豆の焙煎を始めました」というのだから!
次男・陽之進さんと共に、それぞれがハンドドリップ。
最後に淹れたコーヒーのテイスティングしながらブレンド。
フィナーレに相応しい、さっぱりとしたテイストを感じさせつつ、
そこはかとなく甘みが押し寄せ、
今日、食べた料理を思い出させる味わいでした。
「切れ味」という言葉通り、
包丁を最良の状態に研ぐことで食材の味わいに変化があらわれる。
彼らが紡ぐ料理を味わうほどに、心まで研ぎ澄まされていった。
しかもだ。ジビエ、地産地消といった既存の概念では表すことができない未体験ゾーン、
わざわざ福知山へ行く価値があるし、
三兄弟という輝かしい日本の宝に、エールを送りたい。
食後はこんな素敵な時間が待っていた。
松本隆さんは、鰹節カンナを手に。
遊士丸さん、陽之進さん、凛志郎さんと共に。
皆様、本当にありがとうございました。
そしてこの日の食事会を企画してくださった
「NOMI」のご常連「パティシエ エスコヤマ」小山進シェフ。
小山シェフとの「NOMI」体験、念願でした。
また近々ご一緒させてください。ありがとうございました★
「NOMI RESTAURANT」