人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。

京都・福知山。
山深いこの地に、国内外から人を集めるレストランがある。
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11303572.jpg
「野生の味」と「切れ味」をテーマに
若き三兄弟が、両親と共に切り盛りする「NOMI RESTAURANT」

「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11305876.jpg
左から、山本遊士丸さん(23歳)、陽之進さん(21歳)、凛志郎さん(18歳)
彼らは、3歳から包丁をもち、遊びのなかから料理に興味を抱く。
いつもの遊び場といえば大自然の中。
野山を駆け巡り、川の流木で飛行機や弓矢をつくったりしてた野生っ子。

「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11312003.jpg
「誕生日やクリスマスには、既製品ではなく
 ものをつくる道具をあげる。そんな子育てでしたね」とお父様。素敵な教育方針。


「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11313407.jpg
彼らの手仕事は和包丁の土台となる「地」を研ぎ、刃を付け、
美しく、切れ味の鋭い包丁に仕上げるところから。

店では、1回転の仕込みに包丁15本、4枚の鰹節カンナを使うそうだが
100本以上あるさまざまな砥石を使い分けながら研ぎ上げる。
その包丁は、人参専用、胡瓜専用、肉専用…
食材はもちろん、食材の味を残すのか、閉じ込めるのかにより
刃先の仕上げを絶妙に変えていく。そんな3人の研ぎ時間の通算は
長男で1万時間、次男で5000時間、三男で3000時間(!)

長男・遊士丸(ユウシマル)さん曰く、中学生くらいの時、
日本を代表する研ぎ師・藤原将志さんに出会い、学び続けるなかで
兄弟揃って、刃物の切れ味にのめり込んだという。

敷地内では、独自の自然栽培を行い、平飼いで鶏を育てる。
三兄弟の庭のようなフィールドでは、ワナを仕掛けて鹿や猪を狩猟。
それら大切な命が、レストランのテーブルに並ぶことになる。


「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11315001.jpg
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11315362.jpg
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11315610.jpg
その薄さ、1.5ミクロン(1micron=1000分の1mm)
ちなみに人の髪の毛の細さは50~80ミクロン。


*究極の一枚
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11321591.jpg
うま味が伸びやかに広がりながら、消えた。

「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11325266.jpg
鰹節は「クラシック節」で名を馳せる金七商店より。
削り節は我が家でも愛用させていただいています。


「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11330036.jpg
1.5ミクロンの鰹節と
カンナの刃を木槌で調整しながら、若干厚めの鰹節
その割合3:7
前者で味のベースをつくり、後者でふくよかな香りを際立たせる。
「ウチでは一番だし、ではなく0.8番だしと呼びます」とお父様。

*DASHI 0.8 & SUIMONO
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11331036.jpg
感覚が研ぎ澄まされる瞬間。


「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11332319.jpg
次は早朝、近くの山で収穫した筍と、
野生みつば、菜の花と共に。
筍は甘く、清々しい風味。澄んだだしのうま味と共鳴する。
作陶家・桐谷純子さんによる自然界のオブジェのような器と美しく調和。


*松豚 × KIREAJI
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11333678.jpg
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11333603.jpg
切り立て、極細、香りよく瑞々しい。
藁で燻した松豚の香りと脂分がいいアクセント。
器は丹波篠山の作陶家・市野雅彦さん作。


*茶碗蒸
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11335611.jpg
「僕たちが卵から孵化させた鶏が産んだ卵を使いました」。
野鳥が何を食べているかを研究し、
野草や湯がいた鹿肉などを刻んで餌にしているそうな。

「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11335659.jpg
銀餡とともに。
口に含めば、じつになめらかでいて清らか。
スッキリした味わいながら、しっかりとコクがある。


*Banboo
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11341729.jpg
夢中になりすぎて、カメラ撮影忘れてスマホ撮影。
昆布だしで軽く炊いた朝掘り筍を
削りたての鰹節、花山椒とともに。
筍の甘みは奥深く、花山椒の初々しい香りが花開く。



*人参 × KIREAJI
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11342871.jpg
「人参の舌触りを感じていただくための包丁使いです」。

「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11342888.jpg
何この人参・・・!!!
切られた人参の断面が、驚くほど輝いている。
おそらく、人参は切られたことに気がついていない、とさえ感じるくらい。

舌にのせると、なめらかのその先をいくツルツル感。
舐め続けると、レモンと和三盆、
クランベリーからなるエキスや香りが滲み出る。

噛みたくない気持ちを抑え、歯をスッと入れると…。
シャキッと鮮烈なテクスチャーに変貌。今度は人参の質朴な甘みがブワッと広がった。
何もかもギネス級のこの人参を切るために、
スライス3枚ごとに包丁を変えているらしい。驚愕!



「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11353108.jpg

*鹿 芹 菜
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11360451.jpg
牡鹿のモモ肉、野生の田芹、鹿肉のつくね、ゴボウ、白髪ネギを添えて。
鹿の赤身肉と田芹の相性たるや!
大地のエネルギーが、体の隅々に、脳内にまで響き渡る。
つくねはフルフル、噛むほどに味わい深く、
ネギの香りを立たせる包丁使いも素晴らしかった。



*kushiyaki
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11361807.jpg
三兄弟が仕留めた鹿を、串焼きで。
左から、カタ、ヒレ、内モモ、シンタマ。手前にはハツ。

カタはふっくらたおやかで優しい旨みを感じ
大人の雌鹿のヒレは、味がグッと濃厚。
内モモはタレの絡みも良く、こちらも濃ゆい味わいで
シンタマはぷるんと程よい弾力、花山椒の余韻が心地よかった。
ハツもキレイな味!

いずれも、何これ鹿肉!?ってびっくりするくらい澄み切った味。
仕留め方と、迅速で的確な処理の賜物だろう。
話を聞いて合点がいった。三兄弟は
愛媛・今治のカリスマ漁師・藤本純一さんから
魚の神経締めについての手ほどきを受けたという。
彼らは、その技を鹿肉で実践しているのだとか。
いやはや未知なる世界。


「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11363228.jpg
「切れ味は調味料にもなるんです」と、長男・遊士丸さん

*A cucumber that doesn't realize it's being cut
押すと引く
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11363258.jpg
切られていることに気づかないキュウリ。笑

左は引き切り、右は押して切ったもの。
前者は艶やかで瑞々しい。
後者は、よりキュウリの香りが際立っていて、エキスが溢れ出た。
切れ味を調味料にするという発想が凄いな。


「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11365371.jpg
無肥料無農薬育てたお米。
しかも、山の最上流にある田んぼで。
手刈り、天日干し、籾殻付きのまま保存し、
お客の来店に合わせて精米するという。
土鍋で炊いたそれは、小粒ながらもっちり。
自然な甘み、芳しさが堪らん。


「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11373492.jpg
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11373991.jpg

*出汁巻
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11375195.jpg
ふるふる、むっちり。自然界のエネルギーを感じる味。
軽く炊いた蕨が、ふんわり、微笑みかける。



「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11382350.jpg

*猪 鹿 鉄
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11383210.jpg
「包丁で香りを作ります」。
和牛刀から柳刃までを駆使し、
猪、鹿、松坂豚のバラ肉を手切りしていく。
「ミンチの場合、横の二面は鉄、上面はステンレスの包丁で」というように
切れ味を隠し味にしているのだ。

「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11384378.jpg
頬張ればむっちり、
ジビエ特有の野生っぽい風味は清々しく、
噛めば噛むほど旨みを感じる。
蓄えた肉汁は澄みきっていて、もうハンバーグの別次元。

「細野さん、ハンバーグ好きだから食べさせてあげたい」って
目の前にいらっしゃる、松本隆さんはポツリと呟いた。
(細野さん→細野晴臣さん)


「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11385954.jpg
土鍋と、銅の羽釜で炊いたご飯の食べ比べをしつつ、
猪鹿鉄ハンバーグと米。最強でした。



*ブラッドソーセージ
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11390836.jpg
鹿肉の血やレバーや様々な部位、豚の血を用いたブーダンノワール。
良い個体が獲れたときだけ登場する稀少な品。
各種スパイスと合わせた後に、茹でてソテーして、稲藁で少し燻している。

新鮮な血液があればこその極みの品。
切れ味と並び、彼らが誇る最高の鹿肉を余すとこなく味わった。



*DON
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11391934.jpg
米麹でマリネした鹿ロースを用いたカツ丼。
平飼いの鶏の卵、野生の三つ葉で卵とじという贅沢。
このパン粉に至るまで、相当な時間をかけられていて驚いた。
1片ずつ手で割いてほぐした、切れ味の逆説をゆくパン粉は
鹿肉との調和が見事だっら。


*〆
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11392795.jpg
薄味ながら深みがある。
心が洗われる、命のスープ。


*甘味 野生茶
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11393953.jpg
「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11393992.jpg
苺の粒々までもがスパンッと半分、という切れ味。

「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11393940.jpg
山の中で摘んできた野生の茶葉で、お茶を作るところから。それをアイスに。
純粋無垢な味がした。

「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11393952.jpg
コーヒーは三男・凛志郎さんによる自家焙煎。
曰く「15歳でコーヒー豆の焙煎を始めました」というのだから!
次男・陽之進さんと共に、それぞれがハンドドリップ。
最後に淹れたコーヒーのテイスティングしながらブレンド。

フィナーレに相応しい、さっぱりとしたテイストを感じさせつつ、
そこはかとなく甘みが押し寄せ、
今日、食べた料理を思い出させる味わいでした。


「切れ味」という言葉通り、
包丁を最良の状態に研ぐことで食材の味わいに変化があらわれる。
彼らが紡ぐ料理を味わうほどに、心まで研ぎ澄まされていった。
しかもだ。ジビエ、地産地消といった既存の概念では表すことができない未体験ゾーン、
わざわざ福知山へ行く価値があるし、
三兄弟という輝かしい日本の宝に、エールを送りたい。



「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11403878.jpg
食後はこんな素敵な時間が待っていた。

「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11405037.jpg
松本隆さんは、鰹節カンナを手に。
遊士丸さん、陽之進さん、凛志郎さんと共に。
皆様、本当にありがとうございました。

「NOMI RESTAURANT」野生の味、切れ味の極み。_b0118001_11410529.jpg
そしてこの日の食事会を企画してくださった
「NOMI」のご常連「パティシエ エスコヤマ」小山進シェフ。
小山シェフとの「NOMI」体験、念願でした。
また近々ご一緒させてください。ありがとうございました★


「NOMI RESTAURANT」
https://nomigibier.com/restaurant/



by writer-kaorin | 2024-04-25 07:30 | NOMI | Comments(0)  

<< 「ミチノ・ル・トゥールビヨン」... 「もめん」春鹿会、2024年春。 >>