京都・西木屋町
「料理屋 まえかわ」
メディア業界の大御所の皆さまと。
Mさん、誠にありがとうございます。
言わずもがな、「料理屋 まえかわ」店主・前川浩一さんは
「祇園 さゝ木」で13年。最後は料理長を務め、
2020年にご自身のお店をオープンされた方。
その腕前と人柄で、不動の人気を誇る
前川さんには以前、「和食の扉」連載
トップバッターでご登場いただいたことがあって。
リンクを貼っておきますね。懐かしい。
佐々木さんと弟子たち。揺るぎのない信頼関係にいつも感銘を受けている。
まずはビールで喉を潤して、いざ開宴。
立冬の夜、暦のうえでは
“冬が始まるよ”(マッキー槇原調)
■先付
雲子と柳松茸の茶碗蒸し かにあん
タラの白子が、ぷっくり濃密でとろける。
かにの旨みが寄り添い、柳松茸の香りがふわり。
そこに生姜が、きゅっと全体を締めてくれる。
体の芯からじんわり温まって、
「冬の入り口って、いいなぁ」としみじみ思う一皿。
泡にシフト。
「evidence by LVHB Cremant de Bourgogne Blanc de Blancs」
秀逸なクレマン。
ふくよかなタッチながら、キレがとても良い。
■前菜
まずは「柿とほうれん草の白酢和え」
和え衣には、ほんのり燻香。
その香ばしさと柿のやわらかな甘みが重なって、
里山の空気をふと思い出すような、やさしい味。
ほうれん草の青みが、すっと全体を整えてくれる。
脂がほどよくのったカマスに、香ばしい焼き茄子。
そこへ酢橘の香るジュレが寄り添い、
ひと口ごとに、秋の余韻と清々しさが広がる。
グラスの泡が進む、幸せな前菜二景。
■椀物
白甘鯛 ごま豆腐
だしは塩味やわらかく、ふくよかな香りがふわり。
萩の白甘鯛は、引き締まった身のなかに上品な脂。
それがじんわりとだしに溶け込み、
思わず目を閉じたくなる深みが生まれる。
ごま豆腐のほのかな香ばしさがまた心地よく、
ひと椀の中に静かな調和を感じるのです。
■お造り
サワラ 藁焼き
藁の香りがふっと立ちのぼる瞬間、心がゆるむ。
端正な身質に、スッとした脂の甘み。
九条ネギのペーストと共に、
そのハーモニーが静かに広がっていく。
■お造り2皿目
北海道 ブリ 鬼おろし
腹身のいい部位を、さっとヅケに。
口に含むと、脂の甘みがすっと広がって、
そのあとを鬼おろしが軽やかにさらっていく。
黒七味を少しだけ振っていて。
そのピリッとした余韻が、ブリの旨みをきゅっと引き締めてくれる。
冬に向かう海の力強さと、京都の繊細さが同居する一皿。
ご常連とのキャッチボールが楽しくて。
変化球がきても、しなやかに自然体で打ち返す
前川さんのトークが最高なの。
■海老芋 すましバター 黒トリュフ
富田林の「乾農園」より。
海老芋といえば、やっぱり乾さん。
「シンプルに、塩とすましバター、黒トリュフでどうぞ」
前川さんがそう言って皿を差し出す。
和食でこの組み合わせに出会うのは、はじめて。
まだ小ぶりながら、ほくほくとした海老芋らしさは健在。
バターの香りがふわりと立ちのぼり、
トリュフはスライスではなく、マイクロプレインでふわっと削って。
熱を帯びた海老芋に、その香りが絡む瞬間、思わずうっとり。
素朴さと贅沢が重なり合う、記憶に残るひと皿だった。
■鱧フリット 海老とトマトのソース
ナイフをすっと入れると、
淡路の鱧がふわりと顔をのぞかせる。
透き通るような白身が、なんとも上品。
衣はサクッと香ばしく、
中の身はほわほわ、しっとり。
海老とトマトのソースは洋の香りながら、
口に運ぶと、不思議と和の余韻が残る。
マコモダケと舞茸の香りが重なり合って、
奥行きのある味の風景が広がる。
もう、見事としか言いようがない。
■和風ビーフシチュー
赤味噌をきかせた、コクのある深い味わい。
和牛スネ肉に小蕪、大黒しめじ、白木耳…。
ひと口ごとに、それぞれの素材が自分の持ち味を主張してくる。
スネ肉はとろりとほどけ、
味噌の旨みがやさしく包み込む。
気づけば、スプーンが止まらない。
添えられたパンで、ソースの最後の一滴まで。
和の奥行きと洋のリズムが、心地よく混ざり合う。
これはもう、完全にワインの口だ。
ここからは、目眩く“ごはんの時間”。
■蓮根の土鍋ごはん
炊きたての蓮根ごはんの上に、
自家製のカラスミをふんわりと。
そして、仕上げにちょこんとバター。
蓮根はほっくり甘く、
カラスミの塩気がその甘みを引き立てる。
そこへ、とけゆくバターの香りが重なって——
もう、ため息しか出ない。
■鯛ごはん
炊きたての香りからしてもう幸せ。
鯛の旨みがしっとりごはんに染みて、
刻み三つ葉と胡麻の香ばしさが、
まさに名脇役。
添えられた吸い物を見れば、
「ご飯と一緒に、鯛茶漬けでもどうぞ」と前川さん。
——そんなこと言われたら、エンドレスになるやないの。
さらに、白ごはんもスタンバイ。
卵、釜揚げしらす、XO醤、牛しぐれ煮、とろろ…と、
ごはんの友が選べるのだから。
私はグッと我慢して〆ずにゆるりゆるりと杯を傾けたのでした。
■ラ・フランス、りんご赤紫蘇シロップ
シャインマスカット 杏酒のジュレ
食べごろの旬果実と、
りんご赤紫蘇シロップの技に唸る。
どの料理もそう。目の前で調理や仕上げがなされ
「これ絶対に栗のアイス」「いや南瓜?」「ちゃうやろ〜」など、
アタリを探り合うのが楽しかったなー。
皆さん仕事の話をしていても、前川さんの所作に目が釘付け。笑
■自家製バニラアイス 安納芋やきいも 和栗のスープ
ふっと香るのは、深秋の気配。
「アイスクリームは冬が旬」——
以前、そう話してくれた
前川さんの師匠「祇園 さゝ木」佐々木さんの言葉を思い出す。
アイスは、溶けかけギリギリの温度。
ひと口すくえば、ふわりと軽く、
口どけは驚くほどなめらか。
まるで心までほぐれるよう。
安納芋と和栗、それぞれの素朴な甘みが重なり、
じんわりと体に沁みていく。
最後は、水出し珈琲で静かにフィニッシュ。
この夜の余韻を、そっと閉じ込めた。
発想はのびやかに、
けれど、その中心には確かな日本料理の軸がある。
そこへ洋のエッセンスがそっと重なり、
調和の余韻が美しく響く。
そして何より——前川さんという人の魅力。
あの朗らかさに包まれると、自然と笑顔になる。
美味しくて、楽しくて、心がほどける時間だった。
前川さん、スタッフの皆さん、
そしてご一緒させていただいた皆さまに感謝申し上げます。
「料理屋まえかわ」
京都市下京区難波町405
075-744-0808